コラム:妹想い | かたやまハートケアクリニック 長崎長与町 イオンタウン長与内の内科・循環器内科・心療内科

かたやまハートケアクリニック(長崎県・長与町) 内科・循環器内科・心療内科
コラム

当クリニックは院長である僕が内科全般、副院長である弟が心療内科を担当していますが、木曜の午後は父にも内科外来診療を手伝ってもらっています。
父は長崎大学病院、長崎市民病院で勤務後、現在外海の日浦病院で内科診療を行っています。専門は循環器内科ですが、年の功もあるのか内科全般に精通しています。80歳を超えましたが、まだまだ元気で当クリニックでも看護師さんたちには心電図の読み方などを講義したりして、好評のようです。
今回は、父にもこのコーナーに登場してもらうことにしました。時代背景が半世紀も以前の話しのようですが、お目通しいただければありがたいです。

妹想い

(2017.08.23更新)

昭和41年冬、大学からの人事の交代のつなぎに、1ヶ月だけ田川市立病院に勤めたときの話である。

炭鉱町で景気は既に下火であったが、北九州の川筋気質で皆が短気で喧嘩早いことには定評があった。

患者は21歳女性、上を向いたりするときに、眩暈がすると来院。左右の脈の強さに差があり、血圧も左が明らかに低い。当時のレントゲン室にはもちろん血管造影設備などない。そこで有能な技師さんと相談の上、戸板状の上に三つの枠を作って、増感紙とともにフィルムを三枚乗せ、大腿部の大伏在静脈から造影剤を注入して、背中の下のフィルムを、エイ、ヤッ、ヤと、動かした。幸い、タイミングよく、左鎖骨下動脈起始部にくっきりと狭窄がみられた!上気分で翌朝医局に行ったのだが、事態があらぬ方向に進展していた。ナースステーションからしばらくこちらに来ないでくれとの伝言。驚いて訳を聞くと、

「今患者の兄さんというのが、荒れ狂っている」

という。飛んで行くと、赤いマフラーをだらりと垂れた一目でその筋のものとわかる男が、

「あんたがKか!家の嫁入り前の大事な娘を台無しにしてくれた。どうしてくれる!」

と目をつり上げている。何のことかと思えば、右大腿のカットダウンの創のことを言っているのだ。そのまま無言でちょっとこっちに来いと目の合図をして、シャウカステンの前に連れて行った。フィルムの狭窄したところを見せて、健側と比べ、

「よく見なさい。こんなに大事なところが狭くなって、これが完全に詰まったらどうなると思うか あんたでも分かるだろう。今から治療考えるところだ」

と言うと、しばし口を開けていたが、パッと飛び下がってマフラーを取り、そのまま廊下を走っていった。

その後回診していると看護師が呼ぶので、行ってみると前とは打って変わった男が神妙に立っていて、その手には近くで買ってきたと思われる一升瓶が握られていた。笑顔で握手を交わしたのは言うまでもない