コラム:母の思い | かたやまハートケアクリニック 長崎長与町 イオンタウン長与内の内科・循環器内科・心療内科

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コラム

母の思い

(2017.10.05更新)

皆様こんにちは、院長です。10月に入ってすっかり涼しくなり、秋らしくなってきました。季節の変わり目には体調を崩される方も多いので、お気を付けください。今回は再び、父、知之医師に登場願いました。かなり以前、長崎市民病院で副院長をしていたころのエピソードだと思います。

 

午後4時頃だった。市民病院救急外来に中学生を心臓マッサージしながら救急車が到着した。

特殊な不整脈による心室細動で、スタッフを挙げての1時間以上の蘇生が功を奏し、心臓の拍動が自己調律(心室自動)からさらに、洞調律へと復帰したときには思わず周りにどよめきが走った。
しかし脳虚血の時間が長かったので、意識が回復しない。

暮れなずむ海を見下す病棟に移してから、どのくらい経った頃だろうか、窓の外の港の灯がまたたき始めた頃、急に少年の目が開き、意識が回復した。母の眼から涙が滂沱とこぼれ、(よかった!)といったまま後は声も出ない。

しばらくして少年が目を開いたまま(周囲の人は校長先生や友達もその声で誰だかわかるけど目が全く見えない)という。(先生!ありがとうございます。目は見えなくてもこの子は助かったのです!)と母親は低く感に耐えないように言った。

その後幸いにも視力は急速によみがえった。一旦帰宅して翌朝真っ先にベッドに行ってみると少年の顔にはさらに生気が見えた。診察の後、2、3の質問をしてみた。方位覚は正常だが、計算能力が全くないことがわかった。2+2もわからない。母親を振り返ると、(先生、この子は以前から算数はからっきしだめなんですよ)と目で笑っている。

その数日後には計算能力も回復した少年と一緒に帰る母親の後ろ姿に、いつまでも感動が冷めやらなかった。