コラム:折り鶴 | かたやまハートケアクリニック 長崎長与町 イオンタウン長与内の内科・循環器内科・心療内科

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コラム

折り鶴

(2018.05.02更新)

Hさんは85歳と高齢で高血圧がありましたが、体調は悪くなく、いつも笑顔でスタッフにも人気のおばあさんで、娘さんにつれられて定期的に受診されていました。
ただ、問題点としては徐々に認知症症状が増悪してくることでした。

娘さん家族と同居されておられ、最初は物忘れ程度であったのですが、食事をしたことを忘れたり、昼夜逆転、徘徊などが出現し、もの忘れ外来、認知症専門外来なども紹介し、治療を受けてもらったのですが、どうしても進行を止めることができませんでした。

そのような状況で半年ほどたった定期受診の際に、娘さんから、同居がどうしても困難になったので、施設に入居することになり、今後は施設の専属の医療機関にかかるので、僕の受診はこれで最後になることを告げられました。娘さんからHさんには前の晩にお話しされ、当院受診も最後と話されたとのことでした。

Hさんはその様子をずっと横で、いつもの笑顔で聞いていましたが、どこまで理解されておられるかはわかりませんでした。

僕が、“Hさん、いつまでも元気でいてくださいね。”と声をかけると、
“先生、これあげる”と、赤い折り紙でできた小さな折り鶴を手渡してくれました。

それを見た娘さんは、
“いつの間に作ったんやろうか。母は折り鶴が好きで、私にも小さい頃から教えてくれていました。子供の時には大切な人とお別れの時に渡しなさいと言われ、転校するときなどに一緒に手伝ってもらってました。やはり施設に入ることや先生とお別れすることはわかっているんですね。”
と、涙ぐんでいました。

Hさんは変わらず笑顔でしたが、診察室を出るときいつもは手を振って元気に出て行くのですが、最後だけは深く深く頭を下げてお帰りになりました。

認知症になると、記憶、思考能力が低下するのですが、感情は残ります。親しい人との別れのつらさなどは最後まで変わりません。
今でも折り鶴を見ると、Hさんの笑顔より、最後の深く頭を下げた姿が目に浮かびます。