コラム:偽薬 | かたやまハートケアクリニック 長崎長与町 イオンタウン長与内の内科・循環器内科・心療内科

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コラム

偽薬

(2018.09.04更新)

プラセボ効果という言葉をご存じでしょうか。偽薬効果とも呼ばれます。
医学的には効果があると思われない錠剤などを、患者さんが有効な薬と信じて服薬すると病状が改善する状態をいいます。
この効果は冷やかしみたいに、揶揄される感じで使われることも多いのですが、患者さんにとっては体調が改善することが全てに優先されるわけですので、結果論としては偽薬がベストの薬となるわけです。
以下の文章は父の半世紀以上前の経験です。

患者さんは男性、78歳、昭和35年6月のことであった。当方医師になって1年、まだ右も左もわからず、患者のことだけで頭が一杯の毎日だった。脳卒中の山場は過ぎ、意識も回復して、発症から3週間が過ぎた。1週間前に二度目の危機が訪れていた。食欲がどうしても出ず、腎機能が悪化して、尿毒症になりかけたのである。あらゆる手を尽くして困り果てていた。本人はただ目をつぶって観念したようにしている。ふと、田舎の父が、時々、食欲のない患者に処方していた「セルテル水」というのを思い出した。大学の薬剤部に相談すると旧い薬剤師の人が(懐かしい薬ですね)と言って2種類の薬剤を調合してくれた。飲ます直前に個体と液体を混ぜ合わせるのである。奇跡的に食欲が出始めて腎機能も改善、みるみる回復した。次の教授回診の当日、たまたま小生が休みで代わりの友人がついた。教授( N さんよくなりましたネ!もう退院しても大丈夫ですよ。)――(とんでもない !K 先生の許可がないと退院しませんよ!)後日、教授から、受け持ちの手本として皆の前で、いたく褒められた。高岡教授を語る思い出として、今でも当時のナース N さんとの間でよく出てくる話である。

この話に出てくるセルテル水という薬を偽薬と決めつける訳では決してありません。ただ、半世紀以上前にすでに通常の治療ラインからは外れているようであり、現在はおそらく使用されていない薬のようです。それでもこの患者さんにとっては劇的な効果を示し、処方した父は患者さんにとっては教授を超える名医になります。
人間の体は機械と異なり、全ての人に有効な薬は存在せず、そのために医療者は日々トライアンドエラーを繰り返し戦っています。 この患者さんにとってのセルテル水のような特効薬を目の前の全ての患者さんに処方できるような知識や勘があればいいんですが、、、